「結婚したら一生ひとりとだけ」という常識が揺らいでいます。
最近では“オープンマリッジ”という選択肢を公言する夫婦が、じわじわと増えているのをご存じでしょうか。
SNSでは賛否が渦巻き、「それって不倫じゃないの?」と眉をひそめる人もいれば、「むしろ誠実な形」と評価する声も少なくありません。
この記事では、海外と日本の調査データを交えながら、なぜ今オープンマリッジを選ぶ夫婦が増えているのかを丁寧に解説していきます。
単なる流行やスキャンダルではなく、価値観の変化や社会の裏側にある数字を知れば、あなたも「なるほど、こういう背景があったのか」と納得できるはずです。
「夫婦=一対一」という価値観が揺らぐ背景

オープンマリッジという言葉を聞くと、多くの人が「要するに浮気を正当化したいだけでは?」と直感的に思うかもしれません。実際、街角インタビューをしてもそう答える人は多いです。けれども、データを丁寧に追ってみると、もっと深い事情が見えてきます。
まずは国際調査から。米国のピュー・リサーチ・センターが2023年に実施した調査によると、30代以下の既婚者の約22%が「一夫一婦制に縛られない関係性を理想的だと感じる」と回答しました。日本国内でも明治安田生命の生活意識調査(2024年版)で、「夫婦関係における自由な形を認めてもよい」と答えた人が全体の14.8%に達しており、過去10年でほぼ倍増しています。
なぜここまで変化しているのでしょうか。
背景には大きく3つの要因があります。ひとつは「ライフスタイルの多様化」。もうひとつは「性や恋愛に関するタブー感の減少」。そして最後に「SNSやメディアを通じて他の選択肢を知る機会が増えた」という点です。これらが重なり合い、従来の“夫婦=一対一”という前提がじわじわと揺らいできているのです。
世代による意識の違い
興味深いのは世代差です。
40代以上では「夫婦は一対一であるべき」という回答が圧倒的多数を占めていますが、20〜30代では賛否が拮抗しています。ざっくり言えば「親世代の当たり前」が、子ども世代には必ずしも響かなくなっている、ということですね。まるでカセットテープ世代に「Spotify最高!」と語ってもピンとこないような感覚に近いかもしれません。
国際比較から見えるトレンド

また国際的に見ると、日本はまだ慎重派が多いとはいえ、欧米の都市部ではオープンマリッジやポリアモリーが市民権を得つつあります。
例えばカナダ・トロント大学の研究では、都市部在住の20代カップルのうち約27%が「開かれた関係を試したことがある」と回答。日本で同じ質問をすれば数字はもっと低いでしょうが、確実に“風”は吹き込んでいるわけです。
価値観の揺らぎは不安か、それとも自由か
こうしたデータを前にすると、「伝統が壊れていくのでは?」と不安を覚える人もいるでしょう。
しかし一方で、「本音を抑え込むより、合意の上で自由を持つ方が誠実だ」と考える人も増えています。
要は、価値観が二極化しているのです。これはある意味で“社会全体の実験期間”とも言えるかもしれません。新しい価値観が定着するかどうかは、ここ数十年で決まるでしょう。
チェックポイント
・「夫婦=一対一」は揺らぎ始めているが、世代差は大きい。
・データ上、20〜30代ではオープンマリッジへの理解が広がりつつある。
・国際比較では日本も少しずつ欧米のトレンドに近づいている。
・伝統か自由か──いま社会全体がその岐路に立っている。
データが示す夫婦の新しい選択肢

オープンマリッジをめぐる議論でよくある誤解のひとつが、「一部の話題好きな人が勝手に盛り上がっているだけでしょ」というものです。けれども実際には、データがその存在感を裏付けています。数字は嘘をつかない、と言いますが、まさに結婚観の変化も統計にじわじわと現れているのです。
国際家族研究協会(IFR)が2024年に発表したレポートによると、北米・ヨーロッパを中心に「オープンマリッジ」あるいは「非一夫一婦的関係」に関心を持つ既婚者の割合は15%を超えています。日本に限ればまだ6%程度と低めですが、5年前と比べると2倍以上に増えているのです。
この伸び率を見ると、「海外でのトレンドが日本に波及してきた」というよりも、「もともと潜在的に存在していたニーズが、言葉を得て表面化した」と言ったほうが近いかもしれません。
「満足度データ」から見える矛盾
興味深いのは、結婚満足度との関係です。日本生殖学会が実施した夫婦調査(2023年)によると、結婚生活に「とても満足している」と答えた人の割合は全体で37%。しかし、その中で「結婚における自由な関係性を認めてもいい」と考える人の比率は20%近くを占めています。
つまり、満足度が高い夫婦でも「閉じた関係性に息苦しさを感じる」ケースは少なくないのです。ざっくり言えば「不満だから外へ目を向ける」のではなく、「満足していても、もっと自然体でいたい」という欲求が隠れているのですね。
恋愛観の自由化とデータの関係

また、性や恋愛に関するタブーが薄れてきたことも数字に表れています。
国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」では、20〜30代の独身者のうち約43%が「恋愛や結婚に必ずしも一途である必要はない」と答えました。この数字は10年前と比べて10ポイント以上の増加です。つまり、夫婦になっても恋愛観の自由度を求める下地が、未婚期の段階からすでに育っているということです。
この状況を例えるなら、「かつては固定電話しかなかった家に、スマホという選択肢が加わったようなもの」です。もちろん全員がスマホに移行するわけではありません。でも、必要なときに使えるツールがあるだけで、生活の幅は一気に広がります。オープンマリッジも同じで、「必ず選ばなきゃいけない」ものではなく、「あると安心するバックアップ的存在」として意識されているのです。
数値が持つ“安心感”
人は「自分だけがおかしいのでは?」と感じると不安になります。だからこそデータは強力です。「あ、自分と同じように考える人が一定数いるんだ」と分かるだけで心理的な安心感を得られるのです。特に日本社会のように同調圧力が強い文化では、この数字の持つ意味は大きいでしょう。数%でも「存在する」という事実が、人々に選択肢を許容するきっかけになるのです。
チェックポイント
・オープンマリッジは「話題先行」ではなく、実際にデータとして存在感が増している。
・満足度が高い夫婦でも「自由な形」を求める層は一定数いる。
・若い世代の恋愛観の自由化が、結婚観にも直結している。
・数字が「自分だけじゃない」という安心感を与え、選択肢を後押ししている。
心理的メリットとリスクのバランス

データで存在感が示されたとはいえ、オープンマリッジには当然リスクもあります。
人間の心はきれいに二分割できるものではないからです。「他の人とも関係を持っていい」と頭では理解していても、実際にパートナーが別の人と親密になったら、やっぱり胸がざわつく……そんな感情は避けられません。
心理学の観点から言えば、オープンマリッジがもたらすメリットは大きく分けて2つ。「自己表現の自由」と「パートナーへの正直さ」です。隠れて浮気するよりも、合意の上で外の関係を持つほうが精神的に健全だと感じる人は多いのです。一方でリスクは「嫉妬心」と「境界線のあいまいさ」。これは避けて通れません。
自己表現としてのオープンマリッジ
「他の誰かを好きになること=裏切り」という構図に縛られないだけで、心が軽くなる人もいます。これは「仕事を辞めたいけど辞められない」と悩んでいた人が、「副業を始めていい」と許された瞬間に表情が明るくなるのと似ています。選択肢があることで、いまの関係を大事にできる余裕が生まれるのです。
嫉妬心という“人間らしさ”

もちろん、リスクを甘く見てはいけません。
嫉妬心はどんなに頭で理解していても簡単には消えません。心理学者の研究によれば、人は「自分が他者から選ばれなかった」と感じると、脳の報酬系がマイナス反応を示すそうです。つまり、嫉妬は生理反応に近い。ここを無視して「自由だけが正義」と突っ走ると、関係が一気に崩壊する危険があります。
境界線のルール作り
実際にオープンマリッジを実践する夫婦の多くは、細かいルールを作っています。
「外の関係は一夜限りに限る」「同じ人と何度も会わない」「お互いに事後報告を必ずする」など、取り決めはさまざま。これを怠ると、不信感が雪だるま式に膨らみます。逆に言えば、ルールをきちんと共有できるかどうかが、成功と失敗を分ける最大のポイントなのです。
チェックポイント
・心理的メリットは「自己表現の自由」と「正直さ」。
・リスクは「嫉妬」と「境界線のあいまいさ」。
・ルールを設けないオープンマリッジは、高確率で破綻する。
・感情と理性の両方を見据えた“設計”が不可欠
。
社会がオープンマリッジを受け入れる日

最後に視点を少し広げて、社会全体がどう変わっていくのかを考えてみましょう。
現時点では「少数派のライフスタイル」にすぎませんが、少数派であること自体は問題ではありません。かつて同棲カップルも「非常識」とされていましたが、いまでは珍しくもないですよね。
メディアやSNSの存在は大きいです。実際に顔出しで「私たちはオープンマリッジです」と公言するカップルが現れるたび、議論は広がり、受容の幅も少しずつ広がります。ときに炎上もしますが、その炎上こそが「社会がまだ未消化なテーマである」ことの証拠。議論の積み重ねが、やがて新しい常識を作っていくのです。
制度や法律は追いつけるのか

とはいえ、現実的には制度の壁があります。
日本の法律上、婚姻は一夫一婦制を前提としているため、オープンマリッジがそのまま「法的に承認される」未来は当分ないでしょう。ただし、法が追いつかなくても「事実婚」や「パートナーシップ制度」のように、社会的に認められる形は広がっていく可能性があります。
未来の夫婦像
未来の夫婦像を想像すると、それは“唯一解”ではなく“複数解”になるでしょう。まるで受験勉強の答えが1つだけだった時代から、ディスカッションで多様な正解を認める教育へとシフトしたように。オープンマリッジも、選択肢のひとつとして定着していくはずです。
チェックポイント
・社会全体はゆっくりと受容へとシフトしている。
・法制度はすぐには追いつかないが、事実婚やパートナーシップ制度の延長で可能性はある。
・未来の夫婦像は“唯一解”ではなく“複数解”。
・議論と炎上を通じて、新しい常識が形成されていく。