法律的に可能?オープンマリッジの現行制度を弁護士が解説

法律的に可能?オープンマリッジの現行制度を弁護士が解説

「オープンマリッジ」という言葉、最近SNSやニュースでよく目にするようになりましたよね。

でも実際のところ、日本の法律上はどう扱われているのか、きちんと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。結婚制度と恋愛の自由、その間にある“グレーゾーン”をどう整理するのかは、多くの夫婦やカップルにとってリアルな問題です。

本記事では、弁護士の視点を交えながら、オープンマリッジが日本の現行制度でどこまで認められているのかを徹底解説します。法律的な位置づけを知れば、「自由と責任」のバランスをどう考えるかが見えてきますので、ぜひ最後までお付き合いください。

オープンマリッジとは何か?その定義と社会的背景

まず最初に整理しておきたいのが「オープンマリッジ」という言葉の意味です。

一般的には、結婚という法的枠組みを維持しつつ、夫婦が互いに合意のうえで外部の恋愛関係や性的関係を認めるスタイルを指します。ざっくり言えば「結婚と自由恋愛を両立させよう」という考え方ですね。

もし比喩で説明するなら、これは“自宅に住みながらホテル暮らしも許される”ようなもの。通常の結婚生活(自宅)をベースにしつつ、外の関係(ホテル宿泊)もOKにするというルールです。ちょっと突飛に聞こえるかもしれませんが、欧米ではライフスタイルの一つとして語られる場面も増えています。

背景には、「結婚したからといって相手だけに一生を捧げるのは非現実的」という価値観の広がりがあります。

キャリアや趣味、個人の自由を重視する流れのなかで、“恋愛における独占”を絶対視しない人々が増えているのです。日本ではまだ少数派かもしれませんが、SNS上の議論を見ていると「自分も関心がある」という声が少しずつ可視化されてきています。

ただし注意したいのは、オープンマリッジはあくまで社会的な言葉であって、法律上に明確な定義は存在しません。つまり、「オープンマリッジです」と宣言しても、戸籍や婚姻関係に新しい区分が追加されるわけではないのです。ここがまず最初の“ズレ”です。

日本と海外の温度差

海外、特に欧米では「多様な結婚スタイル」として紹介されるケースも多いですが、日本では「不倫との違いがよくわからない」という戸惑いの声が圧倒的です。これは文化の違いというより、法律の仕組みと社会通念がガッチリ結びついているからでしょう。日本の民法は一夫一婦制を前提としており、そこから外れる概念にはどうしても違和感が生じやすいのです。

弁護士の立場から見ても、「オープンマリッジ=違法」という単純な構図にはなりません。実際のところは“違法ではないが、トラブルになったら裁判で不利になり得る”というのが現実的な評価になります。この“中間地帯”をどう理解するかが、オープンマリッジを語る上での第一歩です。

チェックポイント

・オープンマリッジは「夫婦間の合意による自由恋愛」の一形態。
・日本の法律には明確な定義がなく、あくまで社会的な用語に過ぎない。
・海外では多様性の一部として認知されつつあるが、日本では“不倫と何が違うの?”という戸惑いが強い。
・法ではないが、法的トラブル時に不利になる可能性はある

日本の法律における結婚制度の基本

さて、ここからは法律的な話に踏み込みます。

日本の民法第739条では、婚姻は「戸籍上の届出によって成立する」と規定されています。そして第752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」とあります。つまり、結婚とは単なる愛の誓いではなく、法的義務を伴う契約関係でもあるのです。

簡単に言うと、婚姻届を出した瞬間から「私たちは国家公認の契約関係になりました!」という宣言になるわけです。まるで市役所が巨大な契約書のハンコ代行をしてくれているような感覚です。

では「一夫多妻」や「複数の伴侶」を認める仕組みはあるのか?答えはノーです。日本の民法第732条で「重婚の禁止」が明確に規定されています。つまり、複数の婚姻を同時に持つことは法律的にアウト。オープンマリッジが制度化されていない理由のひとつがここにあります。

ただし、ここで誤解してはいけないのが「外の関係を持った瞬間に違法」になるわけではないということ。違法とされるのは“二重に婚姻関係を結んだ場合”であり、恋愛や性的関係そのものは刑事罰の対象ではありません。もちろん倫理的な問題や家庭内トラブルは別ですが、民法の条文上はそこまで踏み込んでいないのです。

憲法との関係

さらに踏み込むと、日本国憲法第24条では「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有する」と明記されています。つまり、基本原則は“対等な二人”による結婚。この条文がある限り、制度上は一夫一婦制が維持される方向性が強いと考えられます。

弁護士の間でも「オープンマリッジは憲法上禁止されていないが、想定もされていない」という意見が多いです。例えるなら、法律は“カレーライスを出すレストラン”なのに、オープンマリッジは“タイカレー”を注文しているようなもの。「似ているけどメニューにない」という状況です。

チェックポイント

日本の婚姻制度は民法に基づく契約であり、法的義務が発生する。
重婚は民法で禁止されているため、一夫一婦制が原則。
外部関係そのものは違法ではないが、トラブル時に問題化する。
憲法は「二人による婚姻」を前提としており、制度的にはオープンマリッジを想定していない。

不倫とオープンマリッジの境界線

次に気になるのは「不倫とどう違うの?」という点でしょう。

不倫は一般的に「配偶者以外との性的関係を、相手の同意なく持つこと」と理解されています。一方でオープンマリッジは、夫婦双方が合意のうえで外部関係を許容するという点で根本的に異なります。

ただし、ここが厄介なところで、法律は“合意があったかどうか”を簡単には証明できないのです。裁判になれば「本当に同意していたのか?強制や圧力はなかったのか?」が問われます。だからこそ、合意が口約束だけだと非常に危ういのです。

もし例えるなら、これは“手書きの借用書”みたいなもの。友人同士で「お金貸すけど返してね」とメモ用紙に書いておいたとしても、裁判では「証拠能力が弱い」とされるのと同じです。夫婦間の合意も、客観的に確認できる形にしておかないとトラブル時には意味を失います。

さらに注意すべきは、裁判所が不倫を判断する基準です。過去の判例では「肉体関係の有無」が重視されており、夫婦合意があっても「第三者が不快に感じた」場合や「子どもへの影響」が問題視されることがあります。つまり“夫婦の自由”だけで完結しないのが、この問題の難しさです。

慰謝料との関係

不倫の場合、配偶者は相手方や不倫相手に対して慰謝料請求が可能です。

ではオープンマリッジで合意していたらどうか?この点についてはグレーゾーンです。裁判例は少ないですが、「合意が明確に存在すれば慰謝料請求は難しい」とされる一方、「社会通念上許されない」とされるケースも想定されます。

つまり、オープンマリッジは“不倫ではない”と言い切れる一方で、“不倫と紙一重”という現実もあるわけです。まさに綱渡りのような関係といえるでしょう。

チェックポイント

不倫=配偶者の同意なし、オープンマリッジ=夫婦の合意あり。
裁判所は「同意の有無」を厳密に確認するため、口約束は危険。
慰謝料請求は合意があれば困難だが、社会通念が壁になる可能性がある。
実務的には“不倫と紙一重”と理解しておくのが安全

法的リスクと注意点

オープンマリッジを実践するにあたり、最も注意すべきは法的リスクです。ここを見落とすと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。

代表的なリスクは以下の通りです。

  • 離婚請求の理由になり得る
  • 子どもの親権争いで不利に働く
  • 社会的信用の低下(職場や親族への影響)

特に「離婚理由」となる点は重要です。民法第770条では「不貞行為」が離婚原因の一つとされています。オープンマリッジが合意に基づいていたとしても、裁判所が「社会通念に反する」と判断すれば不貞行為とみなされる可能性があります。

もし比喩で説明するなら、これは“速度制限のない道を走っているつもりが、急に覆面パトカーに止められる”ようなもの。本人はルールに従っているつもりでも、解釈次第で違反とされることがあるのです。

合意書の作成は有効か?

夫婦間で「オープンマリッジ合意書」を作成するケースもあります。確かに証拠能力を高める効果はありますが、裁判所が必ずしもその内容を尊重するわけではありません。「社会通念」「子どもの利益」が優先されるため、合意書が万能ではない点に注意が必要です。

チェックポイント

オープンマリッジは離婚理由として利用される可能性がある。
親権争いでは「子の福祉」が最優先され、不利になり得る。
社会的信用を損なうリスクが高い。
合意書は一定の防御策だが、万能ではない。

まとめ:自由と責任のはざまで

オープンマリッジは「違法」ではありません。しかし、それは「安全」でもありません。法律上の明確な制度がない以上、実践する場合は自己責任でリスクを背負う必要があります。自由を求めるほど、責任の比重も増す――それが現実です。

もし本気でオープンマリッジを考えるなら、まずは夫婦間で徹底的に話し合い、合意を文書化しておくこと。それでも裁判所や社会が必ず受け入れるとは限らないことを理解しておくべきです。結局のところ、法制度は「平均的な社会通念」に支えられているからです。

「結婚制度は不変のもの」と思い込むか、「時代に合わせて変化する」と考えるかは人それぞれ。ただ一つ言えるのは、法律はまだ追いついていないという事実です。そのギャップをどう受け止めるか――それが私たち一人ひとりに問われているテーマなのです。

チェックポイント

オープンマリッジは違法ではないが、制度上の保護もない。
自由を選ぶならリスクと責任を受け入れる覚悟が必要。
合意書や話し合いは有効だが、社会通念の壁を越えるのは難しい。
現行制度は一夫一婦制が基本であり、変化には時間がかかる。